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母の頚木から逃れるために…『ポイズン・ママ』

Posted by erkazm on 06.2012 HONZ 0 comments 1 trackback

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(2012/03)
小川 雅代

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30年ほど前だろうか、「母源病」という言葉が大流行した事があった。母親の愛情過多、あるいは不足によって子供が影響を受け、あとの人生に大きな影響を与えるという、精神科医の一つの推論であったと記憶している。当時はまだ、幼児虐待やアダルトチルドレンなど概念はなく、母親だけが原因になるのはおかしいのではないかということで、かなり反論も強かったらしい。

最近ではその母と娘の確執を取り上げている小説やノンフィクションが非常に目立つ。しかし街を見れば、親子よりは姉妹か友人のように仲のいい母娘が、おそろいのような洋服を着て歩く姿も多く見かける。母は、夫や息子より娘をあてにし、娘は結婚をせずに実家にいて、母と繭玉の中でまどろむように暮らしている。確かにそれは暖かく甘く、何の心配もなくて幸せそうだ。

『ポイズン・ママ』過激なタイトルである。著者の小川雅代は、女優の小川真由美と先ごろ亡くなった俳優・細川俊之の間に生まれた一人娘で、1969年生まれということはもう40歳を超える。彼女が母親の頚木を逃れるために本書を書くまでには、本当に長い時間が必要だったのだ。

“小川真由美”という女優は、まぎれもなく昭和の銀幕のスターである。特にテレビの世の中になってからは、妖艶な姿で多くのファンをひきつけた。しかしもともとは文学座で杉村春子の薫陶を受けた舞台女優である。当然ながら演技に関しては妥協を許さない。私がこの女優の名前を聞いて思い出すのは子供の頃に見た「女ねずみ小僧」の気風のいい姐さん姿である。


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しかし雅代にとって母は目の前に立ちふさがる大きな壁であった。幼い頃に両親は離婚。小学校に上がるまで、自分の父親は歌手の「細川たかし」だと思っていたほど交流はなかった。母の真由美は雅代に関知せず、自分の義理の姉に預けきりであった。同じ屋根の下に暮らしても、2階は母が一人で住む。その部屋はまるでフランス貴族のように飾り立て、むせ返るような香水と真っ赤な家具で彩られていた。



扉を開けて中に入ると漆喰の白い壁、教会のステンドグラスのような小窓、古い柱時計、レンガ造りの暖炉、高い天井、ハリ、シャンデリア、外国製のシステムキッチン、大きな冷蔵庫、フロス社のアルコライト、マレンコの赤いソファ、映画に出てくるようなホテル仕様のバスルーム。そして寝室には、まさに映画で女優が使う、巨大な「女優ミラー」があった。



しかしおじやおばと暮らす1階は、まるでプレハブの小屋のようで、地震が恐ろしかったと彼女は述懐する。そんな部屋がレンガの暖炉まである2階を支えなければならないような設計、どうやったらできるのだろう。

だれしも子供の頃は、大人は自分の親しか知らない。どんなに奇矯であっても、その庇護の下で生きている者にとっては日常だ。様々な男に入れあげ金をつぎ込み、大女優の傲慢さのままに生き、娘を奴隷のように使う母が雅代にとっては「母親」だったのだ。幼児虐待にあわなかったのは、ひとえに愛情深いおじとおばの家庭に守られていたからであった。

それでも世間は「小川真由美の娘」というレッテルを貼る。演技力には定評のある女優だからこそ、入りこみすぎ周りが見えなくなる。満足できる演技であれば、たとえ男に裸の胸を揉みしだかれるシーンでも幼い娘に見ることを強要するとは、見上げた女優魂というべきか。

すべては占いや怪しい宗教に頼って決め、部屋にはお告げによって数十羽のチャボが放し飼いされている。そのときの男が欲しいといえばフクロウまでも買い与え、生餌を与えるように娘に命じる。ペットには惜しみない愛を与えても、娘からは守銭奴のように取り立てる。

この本の中を読むと、30年前に流行した「母源病」という言葉がよみがえってくる。女優の自分を一番愛している母親は、娘までをそのための一つの駒として扱っていた。テレビや映画でしか知らない“小川真由美”という女優のイメージは、そのままといえばそのままである。雅代が語る母と娘の物語は、運命に翻弄される韓流映画や、その昔には流行った大映映画を見ているような、時代かかって大仰な、スリルに満ちた展開である。

後年、交流のあった父親が亡くなったことで、娘はひとつ吹っ切れたのだろう。あまりのわがままに仕事を干され事業に失敗した母の姿を冷静に見られる年齢にも達した。だからこそ、憎さだけでなく哀れさや可愛らしさまでも、母親に対してきちんとここまで書けるようになったのだと思う。

恐ろしい回顧録である。野次馬の目に晒されることも十分意識もしているだろう。それでも私は、この本を書いた勇気に拍手を送りたい。そしてできれば、ミュージシャンとして何の偏見もなく彼女の音楽を楽しめればいいと思っている。
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著者は早くから、母と娘の確執について多くの問題提起をしてきた。思い当たる“娘”は多いのではないだろうか。


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母との問題だけではない。現実に起きている世代間の問題の事例を多く集めたもの。解決策が出ていないのが残念だが、身近に起きている身近な問題である。


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